「あれ、戻ってこられたんですか。」
ごまかしを頼んでいた若者が、意外そうに目を見開いた。

その言葉から、この若者は侯爵夫人からしっかりと言い含められた上で、この屋敷に送り出されたのだと気付いた。
この若者に教えてあったのは、父の使いと会ってくる、ということだけだ。
実家からの使いと秘密裏に会わなければならない理由も、会ったら戻ってこない可能性も、分かった上で役割を受け入れたのだ。

「今時珍しい貞淑さですね。」
感心しているふうだが、目が言葉を裏切っている。
完全に、馬鹿にした目をしているのだ。
あの夫に従順に仕えて、なにか良いことがあるのか、と。
わたしもそれに同意する。

「そういう訳ではないのだけど、ね。」
実際、そんな理由で残ったのではない。
伯爵が宮廷に伺候する必要はないと考えたから、この屋敷へ戻ってきたのだ。

家令と打ち合わせをしたり、事業に投資したりするようになって、分かってきたことがある。

王家は、時代に取り残されている。

政策が旧時代のそのままで、時代の変化に合っていないのだ。
今のままでは、王家はますます求心力を失ってゆく。

すでに、様々なところに綻びが生じている。
税のことも、その一つだ。
昔とはお金や人の流れが変わったため、現行の制度では十分に税を取り立てることができず、王は資金不足に悩まされているという。
それはとうとう貴族手当を満足に用意できないところまできている。

お金を取れるところから無理に吸いだそうとするので、過重な負担をしている貴族もいる。
それらから逃れるために、貴族たちがどんどん宮廷を離れ、制度の抜け道を採る。
そして、正直者が馬鹿を見るような、そんな状況となっている。

あくまでわたしの想像だが、今回の父の行動を見ても、そう間違ってはいないと思う。


父は、代々の王の近くで仕えてきた血筋を誇りとする生粋の王権支持派だ。

夫を理由にして帰省することを断ったが、実の理由がそのことだと父に知られたら、生意気なことを言うなと頬を張られそうだ。

それに、今回だけで父からの追及がおさまるとも思っていない。
わたしを通じて伯爵に働きかけようとするだろう。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25