わたしは父に面会を申し出た。

執務机に座ったままの父の前に進み出た。
父は目を厳しく光らせ、両ひじを机につき、組んだ両手で口元を隠していた。
一切の言い逃れからも耳を閉ざす姿勢だ。

「お父様。使いの者から聞きました。お手紙を頂いていたことを知らず、お返事が出来なかったことを深くお詫び申し上げます。」

「‥‥。」

父は夫の悪口を言う妻を嫌う。
そのため、夫を責めていると聞こえないように言葉を選ばなければならない。
手紙が届いていないことに対する理由は、今の父はそれほど気にしていないだろう、と予想をつけ、本題に入る。

「わたしは常に、お父様の娘だということを忘れていませんでした。今回、伯爵のところから逃げてきたのには理由があるのです。」

父は「なにを言い出すのだ。」と片眉をぴくりと上げた。

「実は、わたしは伯爵の企みを知ってしまい、正義のために、黙っていられませんでした。わたしは、伯爵を告発させていただきます。」

わたしは胸の前で手を組み、身を震わせた。

「企みだと?」

「はい‥‥あぁ、彼は恐ろしい男です。二枚舌の怪物ですわ。お父様が、陛下のお側に仕えていることを知りながら、あんなことをっ‥‥!」

陛下、の言葉に、父の目の色が変わった。
言葉を詰まらせるわたしに、父は席を立ち、わたしの隣に立って背に手を置いた。

女関係のことに関しては、男は男をかばう。
わたしがいくら夫の浮気を訴えたところで、父にとっては「そんなことでくらいで騒ぐな」というところだろう。
しかし、政治のことに関しては、逆に女からしたら過剰なのでは、と思えるほど、すぐさま反応する。
宮廷にいるときも思っていたが、朝議で誰がどの順番に並ぶか、誰がどの派閥なのかなど別にどうでもいいのだが、彼らにとっては死活問題なのだそうだ。

「なにがあったんだね。」
聞く姿勢になっているのを確信し、わたしは真っ直ぐに父の瞳を見上げた。

「屋敷には入れ替わり多くの客人がやってきました。しかし、わたしは彼らと関わらないよう、仕組まれていましたのです。どんな客人なのか、こっそり観察しました。そして、ある共通点に気づきました。肌の色が浅黒いこと、そして、南の方言のなまりがあること、です。」

父は無言で、壁を睨んでいた。
頭の中では、さまざまな憶測が飛び交っているに違いない。

王宮には、王弟がいる。
王と王弟は母親が違い、王弟の母が南の地方であることから、支持母体も南の地方の貴族たちとなっている。

「それに気付いてからは、夫の行動のすべてが怪しく見えました。例えば、夫は仕事と言って、頻繁に王宮へ行っています。つい最近も王宮に行ったばかりです。一体、誰と会っているのか。」


狙い通り、わたしたちの引き渡しは延びた。
伯爵はすでに条件を果たし、陛下に伺候したと聞く。
本来ならば、父はすぐにでも、条件であるわたしたちの引き渡しを行わなければならないはずだ。
父は真っ直ぐな人間で、普段であれば必ず約束を果たす。

しかし、相手が先に裏切っていれば、話は別だ。
父はきっと、伯爵が本当に陛下に対して忠実であるのか、確かめようとするだろう。
では、なにをもってそれを確かめるか。
言葉はあてにならない。
伺候したその後の行動を見なければ。

そうすると、当然時間がかかる。


「娘とはいえ、女の言葉をそのまま信じるわけにはいかない。しかし、考える余地はありそうだ。事実確認をしよう。」

父はそう言っていたが、それこそ狙い通りだ。


すべて壊してしまったとしても、その壊れた上に立ち続けるしかないのだ。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25