「今日はきみのお母様が来ていたんだって?」

「ええ、お茶をしてお帰りになりました。」

帰ってきた夫を玄関で迎え、一緒に居間のソファでゆっくりした。

「相変わらず、お綺麗なんだろうね。」

夫の言葉に、わたしは小首を傾げてほほえんだ。

夫はわたしのすぐ横に座っていて、その手はわたしの手に、そっと重ねられている。
あれ以来、わたしたちの関係は、新婚でもなかったくらいの距離感で、常に身体の一部が接している。


母の肌は、わたしのような大きな娘がいるとは思えないほど張りがあり、シミが一切ない。
その秘訣を聞くと、母は少女のように、ころころと笑った。

「ふふ。美しさなんて、見せ方ひとつよ。女はみんな女優なの。つまりね、自分を美しく効果的に見せるコツを分かっているってこと。」

女はみんな、と言うが、自分にそれが出来ているとは思えない。
母のように美しい女性だからこそ、そう言えるのではないか。

母には多くの信奉者がいる。

あの父の侍従でさえ、親子ほどの年齢差があるにも関わらず、母を見るときの瞳がうっとりとしている。
彼のそれは幼い頃からで、彼とよく一緒に遊んでいたというのも、彼から母へのただのアピールだったのだ。
「お嬢様が、こんなことをおっしゃっていました。」と事あるごとに母に話しかけていた。
彼は、母の前ではわたしの独り言でさえ「なんて言ったの?」と拾うくせに、母の見ていないところでは、わたしが話しかけてもしょっちゅう無視していた。


「数日こちらにいて、王宮の各方面の方々に会っていかれるそうです。」

夫の聞きたいことはこれだろうと当たりをつけて情報提供した。

もちろん、夫は母の信奉者というわけではない。
母の立ち位置はなかなか特殊なもので、その動向は常に各貴族から注視されている。

母はこの国の北西にかつて存在していた古の王国の、王の末裔なのだ。
滅びた古の王国だが、各国の文化のルーツとして、今でも敬意を払われている。

画家や作家、詩人がこぞって母を題材に取り上げたがるのは、その美しさだけが理由ではなく、神秘的な佇まい、悲劇的な歴史もあってのことだ。

男のロマンを掻き立てるらしい。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25