「またこの場所であなたと会えてうれしいわぁん。」

友人が、夫である侯爵とともにこちらへ歩み寄ってきた。
今日は王宮で夜会があり、わたしたちも夫婦で参加している。

「王宮に華を添えてくれる夫人を、わたしたちは歓迎する。」
と陛下がおっしゃってくださったおかげで、わたしはすんなりと宮廷に戻ることができた。

夫が侯爵と話している間に、こそっとあの預かっていた若者のことを尋ねた。

「あぁ、気にしないで良いわよぉ。懲罰部屋に入れられたようだけど、すぐに出してもらえたみたいだしね。今はもううちに帰ってきてるわよ。」

「怪我はなかったかしら?」

「掴みかかられたくらいで、怪我はなかったわん。」

「それにしても」と友人は唇の端を釣り上げた。

「愛されてるわねぇん。」

ツンツン、と頬を突かれて、顔が熱くなった。
ここ最近の蜜月ぶりをからかわれているのかと思った。
そんなに表情に出ていたか、と両手で頬を隠す。
だが、続けて話されたのは、まったく予想もしていなかったことだった。

「あの子から聞いたわぁ。あなたがいなくなって、伯爵ったら、荒れて荒れて。部屋をめちゃくちゃにするわ、誰も寄せ付けないようにするわ、ひどかったらしいわねん。王宮で一度会ったけど、顔が真っ青なのに目がギラギラしてて、まるで物語に出てくる幽鬼みたいだったわぁ。」

驚いて言葉が出なかった。
それは本当なのだろうか。
あれから領地の屋敷には一度も戻らず、荷物だけ送ってもらっていたので、わたしがいなくなった後の夫の様子はまったく知らなかった。

そこに、侯爵がこちらへ歩み寄り、友人の隣に立った。
「貴女のご主人は、別の方と話しに行かれたよ。」
見ると、向こうのほうで、男性と話す夫の背中があった。


実はわたしは、この、友人の夫である侯爵の顔を、まっすぐに見ることができない。
以前、侯爵夫人に「あなたに仕える男たちについて、侯爵は何も言わないの?」と質問したことがある。
すると彼女は「あらん。うちの旦那とわたしは、とーっても気が合うのよん。」とにっこり笑った。
それ以来、顔を見る度に「この穏やかそうな侯爵が‥‥」と思ってしまい、なんとなく気まずい。


「なんの話をしていたんだい?」
「伯爵の話よん。なんて素直じゃないのかしら。」
侯爵は苦笑で返した。
「彼は若いからね。分からないでもない。」

問うような視線を送ると、侯爵は「貴女は美しく立派で‥‥それに自立している。」と答えた。

褒め言葉のはずなのに、そうは感じなかった。
まるで、それが悪いことであるかのように響く。
この侯爵は、よく謎かけのような言葉を使う。
男性は「美しく立派で自立した」女性が妻であれば、うれしいのではないだろうか。
誰だって、面倒な人間をそばに置いておきたくはない。


「面倒をかけるな。わがままを言う女はけしからん。」と父は常々言っていた。

だが、よくよく思い出してみると、母に「わたしくのワガママ、聞いていただけるかしら?」と小首を傾げてほほえまれると「まったく!」「これしきのことを!」とぶつぶつ言いながらもせかせかと働いていた父。
それに対して母は、ただにこにことして「ありがとうございます。」と言っていた。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25