領地を馬車で見回っていたら、農地の歩道に差し掛かったところで、馬車の前に飛び出してきた男がいた。
20歳くらいの若い男だ。
見たところ、小作人のようだ。

追い払おうと鞭を振り上げた御者を制止して馬車を降りた。
膝をついて頭を垂れた男に声をかける。

「自由民になりたいんです。」
男はそう言った。

事情を聞くと、自由民の身分を買いたいのだか、両親にも反対され、お金のめどが立たないらしい。

最近は人口が増えてきたので、お金を払えば小作地を離れて良い、という領地が増えている。
そのために領主に納めるお金の相場は、平均的な一世帯の三年分の出来高だ。
作物を生産しても、小作人のもとには三分の一も残らないのだから、少なくとも10年はかかる計算になる。

小作人は自由に移動することが許されていないので、この農地を離れることができないのだが、この若者は、都市に行って商人になりたいと言うのだ。

金を貸してもらえれば、利息をつけて返すから、と懇願された。

おもしろい小作人がいるものだ。

御者の目があるので、すぐに返事をすることはできなかった。


わたしの所有する領地の家令にも相談し、わたしは金を貸すことにした。

もちろん夫には内緒だ。
夫は、領地のことに口を出されるのを嫌がる。

この見回りだって、買い物ついでの遠回りという体でなければ、まず伯爵の意向を知る御者が渋る。

以前、夫を無視して領地を回ったら、わたしの馬車を売られてしまった。
独身時代に買ったもので、とても気に入っていたのに。


ちなみに、この元小作人だが、見込みがあるとして、しばらく家令のもとで修行をし、商人として成功した。
貸した金は倍になって返ってきたし、彼から他にも投資話をもらい、わたしは領地以外からも所得を得るようになった。

「良い投資をしましたね。」

この家令もきっと利を得たのだろう。
にっこりと満足げに笑っていた。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25