「ずいぶん親しくなさっているのね。」
シーツに入りかけている夫は一瞬間が空き、合点したように頷いた。
なにを思い出したのか、くすっと笑って、からかうように囁いた。
「護衛の彼、きみに似ているね。」
わたしはシーツを跳ねあげて、上体を起こした。
「どこがっ!?」
わたしはあんなにひねくれていないと訴えた。

ふと気がつくと、夫がまじまじとわたしを見つめている。
子どもに戻ったような話し方をしている自分に気付き、恥じ入った。
「やめてください。似てなどいませんわ。」
言い直したが、すでに遅い。
ふい、とそっぽを向いたわたしを、夫は背後から抱きしめた。

「嫌がることもないと思うがね。彼は気持ちのいい性格だ。」
耳元で囁かれる低く柔らかな声に、わたしはちらりと背後を見た。
「そんなふうに言う人はあんまりいないと思うわ。だって、彼って要領がいいし、その割に少しふらふらしているでしょう?」
「はは、手厳しいな。まぁ、幼馴染だからこそか。」
夫がくしゃっと笑ったので、わたしは夫と向き直り、調子に乗って話し始めた。

一緒に遊んでいて庭の木を折ってしまったのに、彼だけは怒られなかったこと。
幼いわたしが一生懸命、母に話しかけているときに、いつも話を横から持って行ってしまったこと。
このときわたしは、初めてと言っていいくらい、一人で長く話していた。

夫と話すときは、いつも自分の知らないことばかりなので、わたしはあいづちを打って話を聞くことに集中している。
でも、幼馴染については夫よりもわたしのほうが詳しい。
いつもとは逆で、夫が聞き役になっている。

わたしって、長く話すこともできたのね。

そんなことすら思う。
なんにしても、自分の話を聞いてくれる人がいるというのは、すごく嬉しいことだと発見した。

しかし、あまりに長く話し過ぎたらしい。
夫の「彼のことが好きなんだね。」という言葉に、彼が話をまとめようとしていることに気が付いた。
幼馴染のことは、好きは好きだが、同じくらいうっとうしく感じることもある。
気安い関係だけに、ふとした物言いにピクリとくることもあるのだ。
そのことを言おうとするとまた話が長くなってしまうと思い直して、わたしは「それなりには。」と返答した。

夫とわたしは枕に頭をつけ、シーツを肩まで引き上げた。
「あなたこそ、どうして彼を呼ぼうと思ったの?」
「きみのためになるんじゃないかと思ったからだよ。前にも言ったけど、護衛として付きっ切りになるんだ。知ってる相手のほうがきみも気兼ねしなくていいだろう?」
「それはそうかもしれないけど‥‥では、あなたがその護衛と、その、仲良くし始めたのはどうしてかしら。」

夫がわたしの髪を撫でる。
「大丈夫だよ。きみが心配しているようなことにはならない。‥‥最近、思うんだ。年長者としてきみたちを導くことこそ、僕の使命なんじゃないかって。」
静かな口調だった。

「導く?どこへ導くの?」
わたしは目を丸くした。
いまとは違う、どこへ連れて行こうというのだろう。
彼は、なにか変化を予見しているのだろうか。
この屋敷にやって来てから、夫との関係は安定し、子を身ごもった。
これまでの人生の中で、いまが一番いい時間だと思う。
ずっとこのままでいたい。
例の古王国の件で不安はあれど、何も起こらないでほしいと、わたしは毎日祈っている。
変化など、欲しくない。
それだけでは、わたしの願いだけでは、足りないのだろうか。

わたしのこの気持ちは、夫の気持ちと違うのだろうか。

「きみが望む場所に、きみを導くよ。」
わたしの顔を、夫の大きくあたたかい手がするりと撫でた。
その手の上に、わたしはそっと手を重ねた。

どこにも導かないで。
ずっと手をつないでいてくれれば、それでいい。
この手に守られていれば、わたしは安全だと思えるから。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25