「この手紙を侯爵夫人の屋敷へ届けてちょうだい。必ずあなた自身で行くようにね。他の者に頼んでは駄目よ。」
この預かりものの若者は、隙を見てすぐにサボろうとするので、きつく言っておかなければならない。
この前など、頼んだおつかいを別の者に押し付けていたのだ。
話は終わったのに、若者は部屋から出て行こうとしなかった。
「ご覧になってましたよね。」
うつむき加減の暗い顔で、ボソボソと言う。
「なんのこと?」
内心、あのことだろうな、と予想がついた。
あの干し草の上での睦み合いだ。
見られたのに気付いていたのか。
未婚の女の子を親から預かっている立場上、指導すべきかもしれないが、どうせすでに夫が食い散らかした後だ。
見て見ぬ振りをしておく。
本人だって、分かってやっているのだから、口出しされたくないだろう。
「どうか、お許しください!」
がばっと若者がわたしの足元に身を投げ出した。
「お行儀の悪い犬でごめんなさい。‥‥僕に、罰を与えますか?」
もじもじしながら期待の目を向けてくる。
友人によくよく調教されているようだ。
「けっこうよ。」
「あぁ、こんなことくらいで、お怒りはとけませんよね!」
「分かります!」と若者がわたしの両脚にしがみついてきた。
身体を引こうとしたが、腕で両脚を拘束されていて動けない。
「離しなさい!」
「あぁっ!どうか、どうか!」
こいつっ!どさくさに紛れてスカートをたくし上げ、ふくらはぎにちゅっちゅっと唇を落としている。
逃げようとして足がもつれ、倒れ込んでしまった。
やばい。
大きな男の手でわたしの膝を押さえ、その内側に舌を這わせる。
わたしを見上げる若者の目が、キラリと光った。
「どうか僕をお使いください。僕、あなたのことを潤すためにきたんですよ。」
こんな場面だというのに、若者は白い歯を見せて笑う。
さっきまでの反省した様子は完全に演技だったんだな。
「柔らかくて、白くて、おいしい脚ですね。ほら、こうされると、濡れて、きませんか?」
言葉の合間に、んっ、とか、ちゅっ、とか、じゅるっ、とかいう音が入る。
「やめなさい。」
げんこつを頭に落とした。
顔を上げて、きょとん、とこちらをみた若者は「あぁ」となにか勝手に納得し「ご自身ではちょっとってことでしたら、僕が一人でするのを見てますか?」と首を傾げた。
ちょっと待って。
わたしに倒錯した趣味はない。