夫の機嫌が悪い。
「きみは男という生き物が、怪物かなにかに見えるのかね。」
部屋の真ん中に立つわたしと、その周囲をゆっくりと歩く夫。
「得体がしれないという点では当たっていますわ。」
夫の靴音が、わたしの右斜め後ろで止まった。
気のせいかもしれないが、右耳の裏に、男の熱を感じる。
「男ほど単純なものはない。ほら、きみみたいな綺麗な女性がほほえみ一つ寄越すだけで、すぐ言いなりになってしまう。」
くい、と手で顎を持ち上げられ、首を反らせて夫を見上げた。
添えられた指が、すす、と顎のラインを辿って離れた。
わたしはのどを晒したまま、夫の瞳をのぞきこんだ。
「そのほほえみ、男の浮気に効果はないのかしら。」
「浮気?あぁ、もしかして、あれのことを言っているのか。」
大げさに目を見張る男。わざとらしい。この男の半分は演技だと思っていい。
「僕が医師の真似事をしているのは知っているね?」
首が疲れてきたので顔を正面に戻し、小さく頷いた。
実際は、夫のは真似事というレベルではなく、かなり本格的な治療も行っている。
今回もその関係で王宮に呼ばれていたので、これはしばらくぶりの再会なのだ。
「あれは治療のようなものだ。女性というのは、ここに‥‥。」
男の右手が、わたしの下腹部をそっと指を当てた。
「熱がたまると、感情が爆発し、心が散りぢりになってしまう。だから熱を放出させるための、いわば治療だ。‥‥なにより、手っ取り早く大人しくさせられるしね。」
ポツリとこぼした最後の一言こそ彼の本音だろう。声が真に迫っていた。
下腹部に当てられた指が、するすると上へのぼっていく。
胸の膨らみまで辿りつくと、わざと頂を避け、優しくその周りを一周する。
右耳に、夫がささやく。
「きみも、胸にたまったものがあるみたいだね。僕がみてあげるよ。このままだと、段々と胸が苦しくなるよ。」
夫の左腕が、背後からわたしの身体に回された。
「なんでも言ってごらん。きみのすべてを、僕に見せて。」
大きな右手が、襟の隙間から服の下に忍び込んで、胸の膨らみをじかに包む。女よりも硬い皮膚の感触を、敏感な肌で感じる。
「僕のことは、医者だと思って。先生って呼んでごらん。」
「っせ‥‥ん、せい‥‥。」
不埒な右手がうごめいているせいで、時折息を詰まらせながら「先生」と呼んだ。
「はは、きみに先生と呼ばれるのは気分がいいな。」
くりくり、と頂がこねくり回される。
じっとしていられない衝動に、芋虫のように身体をよじらせる。
「ほら、患者さん。力を抜いて、身を任せて。どんな感じがするか、言って。」