アニーはその夜、王子の屋敷に泊まり、次の日に送ってもらうことになった。

ベルが「久しぶりに一緒に寝ようね」と喜んだ時の王子の目は怖かった。

夕食後、談話室に移動した3人は、ソファで向かい合った。
王子の隣にベル、そしてその正面にアニーという配置だ。
くつろいだ雰囲気だったのは王子だけで、肩に腕を回されているベルも、その二人を前にしたアニーも固まっていた。

「用件を聞こうか」

「は、はい。以前、祖父の夜会にいらしたときに、これをお忘れでないかと」

アニーがおずおずと差し出したブローチを一瞥しただけで「俺のではない」と一言。「そうですか」と会話が終わった。

沈黙が訪れ、アニーはワインを一口飲んで口の中をしめらせた。

「それにしても、ここで親友に会えるとは思いませんでしたわ。ご存じでしたか?ベルは、あのときの夜会にもいたのですよ」

「知っている。流行遅れの灰色のドレスで」

ベルは顔を赤くした。あのときそれを指摘されて、皆に見られている中で泣いてしまったのだ。

「え、えぇ」

「とても初々しかった」

沈黙。

「ジェラール様にとっては、珍しかったかもしれませんわね」

アニーはにっこり笑い、何事もなかったかのように話を続けた。

ベルはもはや顔を上げることも出来ない。

「わたくしのいとこ、シトロン族の王女は、ピンクのドレスに宝石を散りばめたものでしたわ。デザインは、新進気鋭のエムロード族のデザイナーで、3カ月待ってようやく作ってもらえたそうですよ。きっと、ジェラール様とお会いになるために、とっておきのを用意したんですわ」

「俺が行くことは誰にも話していなかったから、それはないな。何より、シトロン族の姫と言えば、恋人はそのデザイナーだろう」

祖父が何よりも隠したがっている、王女の火遊び。
それを王子が知っていると分かり、もう祖父の期待がついえていることを悟った。
王子がパーティーに来たのは姫に会うため、という祖父の言葉も、間違っていることになる。

王子がベルを知ったのは、あのパーティーでのこと。
普段身の回りにはいない、無垢な少女を見初め、ベルのパトロンに掛け合ったというのが、真相なのかもしれない。

自分の知らない話になり、ベルがあくびをした。

王子はおもむろにベルを抱き上げ、膝の上に乗せた。

「え、え?」

戸惑うベルの頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。

その光景はほほえましかった。
王子の年齢は25歳。
ベルとアニーより、10歳も年上だ。
さらにベルは年齢よりもあどけない。
守ってやらなければ、という気持ちにさせられるのは、アニーも同じだ。

「昨夜はあまり眠れてなかっただろう。何度も目を覚ましては、寝苦しそうにしていたからな」

「起こしてしまいました?すみません」

「いや、いい」

アニーは、王子をベルの保護者のような目で見た自分を呪った。
このド変態(なんてこと)
二人はすでにベッドをともにしているのだ。

「少し寝なさい」

よほど眠かったのか、ほどなくしてベルはすうすうと寝息を立て始めた。

「さて、本題に入ろう。今日君がここに現れたことは、俺にとって渡りに船だ。じいさんではなく、俺につけ」

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25