「言っていなかったな。ベルには手当があるから、それで買えば良い。」

ガラガラと馬車で市街地に向かっている途中にジェラールから言われて、初めてベルは自分に手当が付いていることを知った。
一体なんの手当なのかは疑問だが、その金額は卒倒しそうなほどの大金だった。

「なんでそんなにお金がもらえるんですか?」

変な汗をかきながらベルは尋ねた。
屋敷の中でしていることと言えば、庭を散歩するくらいだというのに、なぜお金がもらえるのだろう。

「こういうときのためだ。」

ジェラールの言葉は端的だが、ベルは納得したふりをして黙り込んだ。

王妃への贈り物は、香水の入れ物にした。
バッグや服など身に着けるものは好みがあるし、食べ物は渡すまでの期間保管しておくことが難しい。
何件かお店を回った後に、有名な調香師のいる香水店に入ったが、香水も好みがあるので贈り物には向かないか……と諦めかけたときに、ジェラールが提案したのが香水の入れ物だった。

ガラス細工がとても繊細で、リュビ族の国にはあまりないデザインだとジェラールに言われて、即決した。

ついでに、ジェラールが調香師にベルの香水を依頼していた。

「俺からの星誕祭のお返しだ。もし他に欲しいものがあったら、それも用意するから言ってくれ。」

お店の人が隣にいるというのに、ジェラールはまるで気にしていないようだ。
お店の人が笑顔を張り付けた表情の裏で、自分たち二人の関係を探っているのが分かって、いたたまれなかった。

「いえいえいえ、そんな、申し訳ないです。」

「遠慮しなくていい。なんでも言うといい。」

「本当に、香水で、十分です。ありがとうございます。」

香水ができるまでに一週間程度時間がかかるそうなので、完成したら屋敷に届けてもらうことにして店を出た。


帰りの馬車の中で「寄っていくところがある。」とジェラールに言われて連れてこられたのは、どこかの大きな屋敷だった。
ジェラールのお屋敷並に立派なところだ。

屋敷の扉の前で馬車を降りると「お待ちしておりました。」と緑の髪をした人たちが出迎えてくれた。

(緑の髪‥‥もしかして、エムロード族?)

あまり他の血族について知らないベルでも、五大貴族については知っている。

緑の髪といえば、まず出てくるのは五大貴族のうちの一つである、美のエムロード族だ。

ジェラールからなんの説明も受けていないベルは、その正解を得ることなく、案内されるジェラールに付いて行った。

少し歩いた先に豪奢な装飾のほどこされた扉があった。
案内してくれた人がノックをすると、女性の声で返事がった。

開かれた扉の先には、ソファに腰かけたお人形さんのような美少女がいた。
ジェラールとベルが部屋に入り、扉がそっと閉められた。緑の髪のお人形さんは立ち上がり、ジェラールを見た。

「来たわね。」

その視線が、すっとベルのほうへ動く。

「アナタが。」

その視線に縛られたように動けなくなってしまったベルだったが、ジェラールの手がそっと背に添えられて、はっと頭を下げた。

吸い込まれそうな瞳だった。

見つめられると、意思をすべて持っていかれてしまいそうになる。

魔性のような美しさの少女だった。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25