そそっと背後にいた案内の女性が進み出て「お嬢さまは、こちらへ。」とベルを促した。

ベルがジェラールを振り返ると、ジェラールはすでに承知しているようで「隣室だ、いいな。」と言ってベルに頷いてみせた。

部屋を出る直前にふと見た室内で、ジェラールは美少女と対面でソファに座り、もはやベルのほうは見ていなかった。


案内の女性に付いて廊下に出ると、ベルはきょろきょろと辺りを見回した。
長い廊下には自分たち以外、誰もいない。
ジェラールが言った通り、ベルは隣室に案内された。

隣室には数人の女性たちがいた。
みな立ち上がり、ベルのほうを見て軽く頭を下げた。
ベルは、いったいこれはどんな状況なのかと不安になりながらも、ぺこりとお辞儀を返した。

まさかジェラールと離れなければならないとは思わなかったので、なんのためにここへ来たのかなにも質問していなかった。
こんなことになるなら、せめてここがどこで、なんのために来たのか、ジェラールに聞いておけば良かった。

今頃、ジェラールはあの部屋で、美少女と二人きり。

王子がこの屋敷に来たのは彼女に会うためで、二人きりになりたいから、自分は邪魔ということなのだろうか。

(だったら、一人で来ればいいのに‥‥。)

物の数にも入らないベルごときが一緒だろうと、王子ほどの人がそれを考慮することはないということか。

笑おうとしたが、笑えなかった。

(いやだ。わたしったら、卑屈になっちゃって。)

細かくウェーブした緑の髪に、猫のような大きな瞳。
ちょこんとした唇はさくらんぼのようで、きゅっと上がった口角がかわいらしい。

(あんなにかわいい子、女学院でも見たことない。わたしと同じ年くらいかしら。)


「では、お嬢さま。失礼させていただきます。」

ぼんやりしている間に、女性たちに取り囲まれ、ドレスをはぎ取られた。
あまりの手際の良さに「え、えっ?」と戸惑っているうちに、下着姿になってしまっていた。
さらに「失礼します。」と腕を水平にあげられ、メジャーをあてられる。
あっと言う間に全身を採寸されてしまった。

「お疲れさまでございます。それでは、しばしこちらでお待ちください。」

ドレスを着せられてすっかり元通りになったベルをソファに座らせると、女性たちはするすると部屋の外へと出て行ってしまった。

何が起こったのか分からないほどの早業だ。

ベルは、ぐったりとソファに体重を預けた。


ふふ、とかすかに空気を震わせる声が聞こえて、ベルは背筋を伸ばした。

「いいよ、楽にして。」

視線を声のしたほうに向けると、いつからいたのか、扉の前に一人の少年がいた。

その姿を見て、ベルが硬直した。
先ほど見たばかりの美少女と同じ顔がそこにあった。
やはりあの美少女は芸術家が作り上げた人形で、そこに魂が吹き込まれたものだったのだろうかという想像さえ浮かんでくる。

妖しい魅力のある少年だった。

身長はベルより少し高いくらいで、年齢は同じくらいに見える。

しかし、口元にほんのりと笑顔を浮かべながらも、憂いを帯びたような目元が。
その年齢に似合わないその陰が、妙なアンバランスさを生み、色気となって少年を大人びて見せている。

「もうすぐ迎えが来ちゃうから、少しだけ。ジェラール王子には内緒だよ。」

ね、とウインクを投げると、すい、と優雅にベルの背後へ歩いてきた。
ソファの背に軽く腰をもたれかけさせ、ベルの髪を手に取る。

「きれいな髪。乳白色、か。」とさらさらと指からこぼした。

ベルはなんだか不思議の世界に迷い込んでしまったような気がして、されるがまま、ぼんやりと斜め後ろにいる少年を見上げた。

「僕が誰か分からないって顔をしているね、ベル。大丈夫、すべて任せて。僕がきみを、一番に美しくしてあげる。」

どんなシルエットが似あうかな、と歌うように少年は口にした。

 

 

 

 

前の話へ   目次   次の話へ

 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25