終わってほしくない、と唇を離すことにためらうベルに、ジェラールは確かめるように、唇を強く押し付け、さらに自身の唇でベルの下唇を挟んだ。
唇に当たる肌は、少しざらざらする。
(おひげ‥‥ぜんぜんないように見えるのに、ざりざりするのね。不思議)
王子の舌がベルの上唇をぺろりと舐めた。
習うように、ベルも王子の唇を舐める。
まるで子猫のようだと、内心おかしかった。
ベルの心と連動して、唇もほころんでいく。
そっと開いた唇の隙間に、ジェラールの舌が滑り込んだ。
それに応えているうちに、やがて二人はお互いの唇を深く探り始めた。
次第に口づけが激しくなっていき、ちゅっちゅっ、と音のしていたのが、ときおり、じゅる、じゅぱっという音も混じるようになった。
頭と頭がぶつからないようにとか、鼻が当たってしまうとかは、もう何も考えられなかった。
鼻と鼻をこすりつけ、唾液で唇が濡れても、二人は夢中で相手の感触をむさぼりあった。
(こんなに気持ち良いものだったなんて。)
腰をかがめる姿勢がつらくなり、がくんと身体が落ちる直前、ジェラールがベルの腰を両手で捕まえて抱き上げ、自らの膝の上に置いた。
そして再び口づけが始まる。
ベルはたまらない気持ちになり、ぎゅっとジェラールの背に腕を回した。
手のひらに感じるシャツ越しの筋肉。
張りのある滑らかな筋肉に、手のひらを這わせた。
女性と男性の身体が、こんなに違うものだとは。
目の覚めるような発見だった。
ふとジェラールが頭を引いた。
ジェラールが驚いたような目でベルの様子を確認したことには気付かず、ベルは離れてしまった唇を追った。
すると逆に荒々しく唇をふさがれ、ジェラールの大きな手がベルの身体のラインに沿って動き出した。
右手はベルの背中を支え、背中をさすっていた左手が首筋をくすぐり、耳たぶを確かめ、そして再び首、肩へと下がり、わき腹をとおって太ももを撫でた。
夢中で身体を探り合った。
ベルの身体は、一体ジェラールの手にどのような感触をもたらしているのだろうか。
ベルがジェラールに対して感じているような心地よさを、彼も感じていてくれているのだろうか。
(もっと、探ってほしい。)
ベルは身体をぎゅう、とジェラールに押し付けると、身体をくねらせた。
(わたしのことを、探って、知って、発見して。)
そう思う一方で、じわじわと不安が湧き上がってくる。
このまま続けると、どこまでいってしまうのだろう。
未知の領域に足を踏み入れようとしていることは分かる。
このまま行けば、二度と戻って来られなくなってしまいそうな気がする。
強く抱きしめたい。
思いっきり突っぱねたい。
相反する衝動に翻弄され、ベルの動きが鈍り、手は押し返すようにジェラールの肩に置かれた。
そのことに気付いたのか、ジェラールがそっと唇を離し、ベルを肩に額を乗せてベルを強く抱きしめた。
ここまでだ。
はっ、はぁ、と甘い余韻に浸りながらも、心のどこかでほっとしているベルがいた。
それ以来、ジェラールの顔を見ても唇にばかり目がいってしまう。
ベルは熱くなった頬に手を当てた。
今日ジェラールが帰ってくるまでに、頭を冷やさなければ。
視界に入った左手の赤い宝石から目をそらし、ベルは裁縫箱のふたを閉めた。