ちっ、と舌打ちをしたに自分の耳を疑ったが、それよりも急いで両手を取り返すほうが先だった。
しかし、がっちりとつかまれていて、どうにも抜けない。

「えっ、ちょっと、なに考えてんのよ!手をは、な、し、て、よっ!」

イヴに向かって小声で叫びながらめちゃくちゃに力を入れるが、効果はない。
小柄に見えるのに、やはり男だ。
ベルの筋肉のないふにゃふにゃの腕の抵抗では、まったく力は緩まない。

そうこうしているうちに、ジェラールの声が険しくなった。

「いるのは分かっている。ここを開けなさい。」

ベルがここにいることをジェラールに知られてはまずい。
しかも、この場面を見られたら、誤解‥‥いや、告白された以上、誤解とも言い切れないが、とにかく勘違いされることは確実だ。

イヴはベルを無視して扉に向かって声を掛けた。

「どなたですか?僕の名前を知っているようですが、名乗りもせずに突然やってきて、扉を開けろとは無礼ではないですか。」

「時間かせぎはけっこうだ。話がある。五秒数えても開けなければ扉を壊す。」

秒読みをする声が扉の向こうから聞こえてきて「イヴ、ジェラール様だわ!」とイヴに言うが、彼もそれは最初から分かっていたようだ。

「ちょうどいい機会だよ、ベル。ちょっと思ったより早かったけど、やっぱり直接言ったほうがいいもんね。」

にっこりと笑うイヴを殴ってしまいたい。

(むしろお願いだから気絶させてください。)

ベキッ!ドゴン!

扉が無残に壊れ、倒れた。

「大丈夫、他人の屋敷だし、人目もある。きっと、殺されることはないと思う。‥‥きっと。」

最後の一言は、聞きたくなかった。



時はさかのぼって、ベルがスツールに座ってしまう失敗をする少し前。

ジェラールはパメラと共に、二階の廊下にいた。

ふと、視線を感じてそちらを見たジェラールの目に、ぱっと視線をそらすイヴの姿があった。
イヴはすでにジェラールに背を向け、頭をすっぽりと覆った、身長が同じくらい女性をエスコートしていた。
なんとなく気になって、彼らがホールを出ていくまで、ずっと眺めていた。

「ジェラール様。」

呼ばれて振り向くと、ジェラールの屋敷のものが慌てた形相で人波を縫って近づいてきた。

なにか急ぎ伝えたいことがあるようだ。

耳打ちされた内容に、ピリ、と神経を尖らせる。

話は隣にいたパメラの耳までは届かなったようだ。
しかし、無表情ながら緊張しているのが伝わってきた。
なにか知っている、と直感した。

報告に来たものを帰らせると、ゆったりとパメラの斜め前に立つ。

「ベルが屋敷からいなくなった。お前が連れてきた連中に聞いたら、そのうちの一人が、仮縫いに必要だからと言って、侍女になにも言わずに連れ出したそうだ。」

「タイヘンね。」

「お前も一枚噛んでいるようだな。ベルはどこだ。」

パメラが無表情に首を傾げると、ジェラールはその細い首にそっと大きな手を添えた。
周囲から見たら、身を寄せ合って肌に触れているようにしか見えないだろう。
しかし、少しずつ力が入り気管を圧迫している。
ジェラールはパメラの耳に唇を寄せてささやいた。

「ベルになにかあったら殺す。エムロード族の王女だろうと関係ない。」

苦しそうな表情にださないようにしていたパメラだが、それももう限界に近くなってきているはずだ。
こうまでしてしゃべらない理由とは、いったいなにがある。。

そのとき、ジェラールの脳裏にひらめくものがあった。

さきほど見たばかりの、去っていく後姿。
それがなぜあんなにも気になったのか。

「待て。‥‥あのドレスのデザイナーは誰だ?」

「‥‥イヴよ。」

絞り出すようなパメラの返事を聞くなり、ジェラールは手をぱっと離して走り出した。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25