「なにをごまかすというのだ?」

この期に及んでとぼけるジェラールに、ふつふつと怒りがわいてくる。

「わたしにはなにも言わなくてもいいと思っているんですか。だから、いつも、なにも話してくれないんですか。……ジェラール様は、ここに一緒に来た人がいるはずです。」

「パメラのことか。俺と彼女が恋人同士だと言いたいのか?」

口にすることも苦しくて、ベルは無言で首を縦に振った。

「恋人ではない。」

「え?」

「パメラと俺は恋人ではない。ただの夜会の同伴者だ。」

ちらり、と視線が足元に向かった。
いまだ、ジェラールの膝の下にいるイヴ。
彼はジェラールとパメラが恋人同士だと言っていなかっただろうか。

正確には覚えていないが、そのようなニュアンスのことは言っていたはずだ。

その視線を後頭部で感じたのか、イヴはため息をついて「説明させてくれるかな。」とやっと声を発したのだった。



「パメラとジェラール王子の噂があったのは本当だよ。」

三人は部屋をかえて話をすることとなった。
追いついたパメラを加え、扉が壊される音に慌ててやってきた屋敷の主、サフィール族の青年に「わたしも同席します。ここではなんですから、部屋をかえましょう。」と案内された部屋に集まっていた。

ソファにはジェラールとイヴが隣同士に座り、その正面にはイヴとパメラが並んで座っている。
ジェラールの斜め前には、椅子を移動させてきたサフィール族の青年、という配置だ。

イヴはベルに向けていた視線をジェラールへと向けた。

「ベルは、その噂さえ知りませんでした。ジェラール王子は、ベルを閉じ込めて噂が耳に入らないようにし、その上でパメラを伴っては夜会に出かけていたんです。それに、どんな風に噂されているのか知っているのに、周囲にそれを否定しませんでしたね。」

「否定するもなにも、ただの噂だ。事実ではない。イヴ王子はそのことを知っていたはず。」

「パメラと同伴していたことは事実です。」

ジェラールが隣に座るベルに顔を向けると、悠然とした動作で、ベルの手をぎゅっと握った。

「ベル、こうした夜会に同伴者は必要だ。お互いに都合がよかったから、一緒に行動していたに過ぎない。誤解させてしまってすまなかった。」

本当にジェラールとパメラは恋人同士ではないのだろうか。
信じたい気持ちと、この目で見た光景とがぐるぐる回る。
ベルはちらりと視線をパメラに向けたが、緑の髪の美少女は無表情にぴんと背筋を伸ばし、ソファに腰を掛けていた。
その視線は、自身の膝の前にある背の低い机の上にまっすぐ向けられている。

「ジェラール王子、あなたは、ベルを閉じ込めていたことは否定しないんですね。」

イヴははっきりとした口調で、ジェラールを非難する。
その視線はぴったりとジェラールに向けられているが、なんだか違和感がある。

違和感の正体は、イヴの言葉がジェラール以外に向けられていることにあった。
しかし、ベルはその違和感の正体までは考えが至らず、もやもやした気持ちで軽く首をひねる。
それに対して、イヴの目的に気付いていたジェラールの瞳がキラリと光った。
イヴの行動は、この場に立ち会うことになったサフィール族の青年を意識してのことだった。
初めから、イヴはこの状況に持ち込むことが目的だったのだろう。

たとえジェラールに恋人がいたとしても、イヴには二人の関係に口を出す権利はない。
男がリュビの結晶を女に贈り、女はそれを身に着けている。
さらに、共に暮らし、事実上、婚約者もしくは妻と言える状況にある。

身分ある男の女性に横恋慕する以上、正当な理由を外に示す必要がある。

そのためには、サフィール族が立会人として適任だった。
彼の血族は成文化されることをなによりも大切にし、サフィール族の間では普段から重要な話し合いには立会人を置き、その内容を記録している。
それは複数の血族をまとめるディヤモン族の裁判においても有効な手段で、なにか問題が起こった際の証拠として、とても重視されているのだ。

最終的な判断をするのはディヤモン族の領分だが、それまでの資料固めはサフィール族が得意としている分野だ。

イヴは、この先裁判になることもにらんで、ジェラールとベルの二人の仲に割って入るだけの正当な理由を示そうとしているのだった。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25