「かわいそうに、ベルは一人屋敷に残され、ジェラール王子が女性を伴って出かけるところを見送るしかなかったのです。ですから、僕は‥‥。」

「ベルを勝手に連れ出したということか。」

「勝手に、とはどういうことでしょうか。ベルにはベルの意思があり、ジェラール王子の許可なくして行動できないということはありません。僕はベルを誘いました。一緒に夜会に行こう、と。僕と一緒に夜会に出ると決めたのは、ベル自身です。」

サフィール族の青年が口を開いた。

「この場での発言をお許しください。ベル様、初めまして、わたしはサフィール族のルイといいます。ジェラール王子、パメラ王女、イヴ王子とは以前からお付き合いをさせていただいています。今回は中立の立場として、この話し合いに立ち会わせていただきますね。」

ルイは、にこりとベルにほほえみかけた。殺伐としたこの空気の中で、一人柔和な雰囲気を漂わせている。年は、ジェラールよりも少し下に見えるが、ゆったりとした様子で、余裕があるように見える。

「先ほどのイヴ王子の言葉ですが、リュビ族の婚姻において、略奪を防ぐために、屋敷の奥に女性をかくまうのは一般的なことです。身の安全を図るためには、ある程度自由は犠牲になってしまうものです。安全か自由か、どちらを重視するか、その考え方によって感じ方は違ってくると思います。もし本人の意思に反して過剰に行動を制限していた、そしてそれが過剰であることをベル様がジェラール王子に伝えていたにも関わらず状況が変わらなかったとしたら、それは閉じ込めていたと言えるかもしれませんね。」
冷静にルイが言えば「僕が思うに、身分違いの相手で、しかも実家の援助があてにならない状況で、ベルがジェラール王子に本心を伝えることは難しかったと思いますよ。」とイヴが返した。

「ベルがどう感じていたかということですが、今日、僕と一緒にこの夜会に出ようとしたっていうこと自体が、屋敷の奥でじっとしていることをよしとしていないという答えです。」

「ベル様はどう思っていらっしゃいますか?」

ベルの口元がひく、と動いた。

たしかに屋敷を出てみたいと思っていたが、そんな大きなことを考えてのことでは、けっしてなかった。
ベルが思うのは、ただひたすら、なにもなかったことにして屋敷に帰りたいという思いだけだった。

ここで発言を誤れば、後々大変なことになりかねない。

ベルがちらりとジェラールの顔色をうかがえば、彼は静かにベルを見て、軽く頷いた。

ぐるりと視線を巡らせれば、他の三人はベルが口を開くのを待っている。

「閉じ込められているなんて、そんな‥‥。たしかに、少し出かけたりしたいなぁって思うことはありましたけど、この前はお買い物に行くことができましたし‥‥。今日のことだって窮屈とか、そういうことではなくて、ただ、ジェラール様とパメラ王女が出かけるのを見て、気になって‥‥。」

ジェラールたちの前でこんなことを言うのはとても恥ずかしくて、ベルは身体を小さくしていった。

「イヴだって、二人が結婚するって言っていたじゃない。」

唇を尖らせて、恨みがましくイヴに向けて言うと、イヴは肩をすくめた。

「そうだったかな?噂があるっていうのと、王族同士の結婚なら式は盛大だろうね、とは言った覚えがあるけど。結婚するとは言ってないと思うよ。」

イヴはあっさりとベルの言葉を流した。
あまりに堂々としていて、ベルは自分が間違えていたのだろうかと思ったが、なぜか、裏切られたようにも感じる。

「そう、だったかしら‥‥。わたしの、勘違い?でも、あのときは‥‥」

「それより、ジェラール王子が他の女と出かけているのは、ベルはどう思うのかな?」

イヴがベルの言葉を遮った。
ベルはもやもやした気持ちのまま、ついぶっきらぼうに返した。

「どう、ってなによ?」

「仕方のないことだと思う?それとも、裏切りだと感じる?」

「わたし、そんなことを思うような立場ではないわ。」

ずきずきと痛む心を無理やりおさえつけて、投げやりに答えた。

「そうなの?」

「わたしごときが、そんなことを思う権利、ないもの。」

「あぁ、そういえば、ベルってば僕が教えるまで、リュビの結晶の意味も知らなかったよね。自分が付けている指輪がどういうものなのか、知らずにつけていたんだよね?」

「えぇ‥‥まぁ‥‥。」

イヴがどこかへ話を誘導しているが、どこへ向かっているのか分からず、ベルは警戒の眼差しでベルを見ながら、歯切れ悪く答える。

パン、とジェラール王子が手を打った。

イヴは勢い込んで話し出そうとしていたが、気勢をそがれた。

「イヴ王子が、パメラとわたしが結婚すると勘違いするはずがないな。わたしの依頼で、ベルのドレスのデザインを手掛けているのだから、その意味は明白だ。それにもかかわらずあえてわたしとパメラの結婚をほのめかすというのは、勘違い以外の意味があるのだろう。」

意味は明白、と言うが、ベルには理解できなかった。
依頼をして作ってもらうと、なにかあるのだろうか。

 

 

 

 

前の話へ   目次   次の話へ

 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25