(眠れない‥‥。)

一人で寝台にいると、やけに静かに感じる。

(気付かないうちに、人肌に慣れちゃってたんだなぁ‥‥。)

一人で寝台にいると、落ち着かない。
そのことに気付いたのは、あの夜会の日からだ。

あれから、ジェラールとの接触はない。
ジェラールは別の場所で眠っているようだ。

侍女に聞けば、朝は「ジェラール様は、すでにご出発されました。」と言われ、夜は「お帰りが遅くなられるとのことですので、先におやすみになるように、と伝言がありました。」と言われてしまう。

夜中に屋敷に帰ってきては、明け方に出ていっているようだ。

この状態がいつまで続くのだろうか。

今日は侍女から言いづらそうに「もしベル様が望まれるのでしたら、別の屋敷をご用意させていただくとのことでしたが‥‥いかがされますか?」とさえ打診されてしまった。
心がぽきりと折れてしまいそうになったが、なんとかここに残ることを伝えることができた。
侍女が、ほっと表情を緩ませた。

屋敷のものはなにも言わないが、無言のうちにじっと視線で訴えてくる。

このままではいけない。

分かっていても、どうしたらいいのかわからなかった。


「お出かけですか?もちろん、けっこうでございます。」

「え?」

「ジェラール様より、お出掛けの際の護衛もすでに選任されておりますので、すぐにでもご用意できますが、いかがされますか?」

「えっと、今日はいいの、ありがとう。」

今まで外に出られないと思っていたのはなんだったんだろうと思うほど、あまりにあっさりと許可されてしまい、拍子抜けしてしまう。

もしかして、出かけようと思えばいつでも出かけられたのかもしれない。

それとも。

(もうどうでもいいと思われちゃったかな‥‥。)


出かけられると分かっていても、出かける気にならずに屋敷にいると来客があった。

「パメラ王女‥‥。」

緑の髪の美少女が目の前に現れたときは、思わず次の言葉を失った。

ベルがどうしていいか分からずに立ち尽くしていると、侍女たちがそそくさと「どうぞこちらへ。」とソファをすすめ、二人はローテブルを挟んでソファに対面に座ることとなった。

唐突に、パメラが無表情に口を開いた。

「回りくどいのはニガテ。率直に言うわ。この前はすまなかったわね。」

一瞬、ベルはぽかんと口を開いて止まってしまった。

すまなかったと言っただろうか。

言葉と口調が合っていなさすぎて、すぐに意味が分からなかったのだ。

「い、いえ‥‥。」

正直、なにについて謝られているのか理解できない。

イヴとベルを引き合わせたことについてだろうか。

ジェラールと一緒に夜会に出たことについてだろうか。

それとも、イヴの行動について‥‥。

「弟のこと。ジェラールとはなにもないもの。」

ベルの心を読んだように、パメラが言った。

「そ、そうですか。いえ、なんだか、わたしもすみません‥‥。」

たじたじになりつつも、ベルはなんとか謝った。

その後のイヴの様子を聞けば、彼はドレスの制作に集中しているという。
なんだかこんなことになってまで作ってもらうのは悪い気がする。
そう言うと「作らせてあげて。」とパメラに言われた。

「ジェラールに言われてイヴにドレスを頼んだのはわたし。断ってもいいと言ったけど、あなたのことを一目見て気に入ったみたい。どうしても作りたいって。」

「そ、そうですか。」

「気に病まないで。イヴのあれはビョウキ。」

「び、病気、ですか。」

「デザインするとね、その相手にコイをする。」

「‥‥。」

なにも言えないでいると、会話がなくなって、しん、としてしまった。

パメラが腰を上げる。

「もう帰るわ。」

ベルも慌てて腰を上げる。

「あ、はい。玄関までお見送りします。」

「けっこうよ。」


扉から出る直前「そうそう。」と思い出したようにベルを振り返った。

「ジェラールにも。あなたを手に入れるために、あれだけ頑張っていたのに。ケンカしたみたいで、悪かったわ。」

言葉は単語ばかりで分かりにくかったが、ベルの思い違いでなければ、ジェラール王子はベルをとても思ってくれているのだと理解していいのだろうか。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25