妹がリュビ族の王子の妻となったと知ったのは、ベルがジェラール王子の屋敷に迎えられてほどなくしてからだった。
母が突然面会にきて、その事実を伝えられた。

僕はそれほど驚かなかったと思う。

あぁ、あれはリュビ族の王子だったのか、と思っただけだ。


僕が幼い頃から、屋敷に出入りする毛色の違う人間がいた。
明らかに身分の高そうな年上の男の人が単身で屋敷へとやってきていたのだ。

年上とは言っても、父ほどではない。
お兄さんくらいだ。
でも、年齢の近い僕よりも、おしゃべりすることすらできないような年齢の妹と、いつも遊んでいた。
僕でさえ妹の幼稚な遊びに付き合っていられないのに、そのお兄さんは頻繁に来ては、根気強く妹に付き合っていた。
母にそのお兄さんについて聞くと、いつも困ったように首を傾げるだけだった。

パルレ族しか見たことのなかった僕は、お兄さんが他の血族だということは分かっても、何族かは分からなかった。
しかし、その後すぐに察しがついた。
母の部屋の書架に、リュビ族に関する本が増え、妹に与えられる絵本も、リュビ族の王子様が出てくるものばかりになったからだ。
ある時からぱったりとお兄さんは来なくなったが、絵本の影響もあってか、妹はリュビ族に対する憧れを強めていった。


ベルが12歳、僕が15歳の頃、母が突然、皇都へ留学の手配をしたから行ってきなさいと言い出した。
僕だけならまだしも、妹も一緒に。
パルレ族は基本的に、領地の外へは出ない。女の子ならなおさらだ。

他のパルレ族は一生を領地内で終えるというのに、なぜ我が家から二人も行くことができるのか、お金はどうするのか、と疑問をぶつければ、母の知り合いで援助してくれている人が皇都にいて、その人が留学してはどうかと打診してくれたという。

すでにパルレ族の王の承認も得ていると言われ、拒否権はないことを悟った。

ふっとあの赤い髪のお兄さんのことが頭をよぎったが、興奮した妹の声に霧散した。

妹はこの話を喜んでいた。
与えられた恋物語の舞台は、いつも皇都だ。
物語でしか知らない町並みをこの目で見られるなんて、と単純にはしゃいでいた。
同じ本好きとは言っても、歴史学などを好む僕とは違って、妹は恋物語ばかりを読んでいる。
パルレ族が援助を受けて皇都へ留学するということが、どれだけすごいことなのか、理解していないようだった。


僕は大学に、妹は女学院に入った。
それぞれ寮があり、そう行き来もできないため、もう一年以上会っていない。
最後に会ったときに、嬉しそうに友達の話をしていたから、苦労なく過ごせているようだ。

基本的に敷地内から出ることのない女学院の生徒とは違って、大学の男子学生は自由に街を散歩することが出来る。
自由の代わりに、自分の身は自分で守らなければならない。
学友たちの会話から、妹がいる女学院が皇都のなかでも特に格式の高い、各血族の王族や有力者の娘がいる、男子学生憧れの場所だということが分かったが、自分の妹が通っているということは誰にも話していない。
ただでさえパルレ族は珍しく、僕の背後にいるのは一体誰なのか皆興味津々だというのに、これ以上無用な興味を引きたくない。
自分の身を守るために、とにかく地味に過ごしている。
リュビ族王子の妻と兄妹ということは、できればおおっぴらにしたくないものだ。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25