ベルは再び、そおっとそおっと、ジェラールの胸に頭を軽く乗せて、えへへと顔をほころばせた。

こんなに近づくチャンスは二度とない。

王子が眠っている間に、少しだけこの状況を堪能してしまおう。

頭を胸に乗せて少し上を向くと、緩められた襟元から、喉仏が見えた。
そして、力強い顎。
少し厚めの唇。
弓なりに曲がった鼻。
何もかもが、自分とは違う。
これが、男性というものか。

顎から耳にかけてのラインに、なぜか目が釘付けになった。
気が付いたら、手を伸ばして触れていた。
撫でると、ひげなのか、少しざらざらした。

腰に触れている王子の腕にきゅっと力が入り、思わず手を引いた拍子に、王子の唇にかすめてしまった。

王子の様子を確かめるが、やはり眠っている。

ふと、お尻の下、ベルとジェラールの間に、硬いものがあることに気が付いた。

王子の服の金具が当たっているのだ。

ベルは位置をずらそうと、お尻をもぞもぞと動かした。
しかし、どうも当たる。

そこで、手をお尻の下に差し込んで金具を移動させようとした。
金具ではなくて、木の棒だろうか。
王子の服ごしの感触では、それに近い。
しかも、大きい。
ベルの手と同じか、それ以上ある。

そんなものをなぜポケットに入れているのだろう。

「ぅっ‥‥」

夢中でまさぐっていたベルは、王子の呻き声で、顔を上げた。
そこには、薄く目を開け、壮絶な色気をまとった王子がいた。

はぁ、と悩ましげな吐息に合わせて、王子の胸が大きく上下した。
その動きは、密着したベルに直に伝わる。

ベルは今度こそ本当に逃げ出そうとした。
しかし、がっちりと腰に回された腕は、緩む気配がない。

「ベル」

いつかのパーティーのときと同じように、ベルは混乱のあまり、泣きだしそうだった。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

あつかましく触れたことを、今すぐ床に膝をついて平謝りしたい。
しかし、いかんせん王子に阻まれて身動きがとれない。

息がかかるほど顔が近い。
王子のほうを向いたら唇が触れてしまいそうで、そんなことになっては王子に申し訳ないという一心で、ベルは顔をそむけた。
そんな気遣いを一切気にかけず、王子は空いている手でベルのほほを包んだ。
そして、優しく王子の方向へ誘導する。

王子は目を伏せ、薄くベル見つめたまま、顔を寄せてきた。


あ、キス。


しちゃう、と思った、そのときだった。


廊下から、ばたばたと人の走る音と、使用人たちの焦った声が聞こえた。

視線でちらりと問いかけると「気にするな、鍵はかけた」とかすれた声でささやく王子。

しかし、女性の怒鳴り声と、使用人頭のなだめる声が徐々に近づいてきて、図書室の扉がガチャガチャと揺さぶられるに至っては、王子はぱっと手を離して舌打ちをもらした。

そして、ついに――――


ドゴオォッン、バタンッ


図書室の扉が、断末魔の悲鳴を上げ、破壊された。

 

 

 

 

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 最終更新日 2016/01/31

 最終更新日 2016/12/25